2026年9月15日

私の血圧、どちらが本当?
「健診で血圧が高いと言われたんですが、家では普通なんです」
診察室で、よく聞く言葉です。
「病院に来ると緊張するからですよね」
確かに、そういうことはあります。
例えば、健康診断では160/95 mmHg。
でも、自宅では125/75 mmHg。
では、どちらが「本当の血圧」なのでしょうか。
答えは、
どちらも、その方の血圧です。
血圧は一日中同じではありません。
だから高血圧の診療では、「何mmHgだったか」だけでなく、いつ、どこで、どのような状態で測った血圧なのかまで考えます。
今回は、健診で血圧が高いと言われたときに知っておいていただきたい「家庭血圧」の話から始めてみます。
血圧は「一枚の写真」ではなく「動画」で見る
健康診断で測った血圧は、その日の、その時間の、その瞬間の血圧です。
血圧は朝と夜でも変わります。
運動、仕事、睡眠、寒さ、ストレス、喫煙、飲酒など、さまざまな影響を受けます。
医療機関で測ること自体が血圧に影響する方もいます。
そう考えると、一回の測定だけで、
「私は血圧が高い」
あるいは、
「私は血圧が正常」
と決めるのが難しい理由が分かります。
一回の血圧が「写真」だとすれば、家庭血圧は普段の血圧を「動画」のように見るための情報です。
ここに、家庭で血圧を測る大きな意味があります。
病院では高い。でも家では正常。
医療機関では血圧が高いのに、家庭では高くない。
このような状態を**「白衣高血圧」**と呼びます。
「病院では緊張するから血圧が上がる」
というのは、実際にある現象です。
ですから、
「家では正常です」
という情報は、診療する側にとっても大切です。
ただし、
「じゃあ健診の血圧は無視していい」
という意味ではありません。
本当に白衣高血圧なのか。
普段から血圧が高いのか。
それを判断するためにも、家庭血圧を確認する意味があります。
実は、その反対もあります
ここが血圧の少し面白いところです。
病院では正常。
でも、自宅で測ると高い。
これを「仮面高血圧」といいます。
例えば健診では、
128/78 mmHg。
「問題ありませんね」と思っていた。
ところが、家で毎朝測ってみると135~140 mmHgくらいある。
こういう方もいます。
診察室では高血圧が「隠れている」ので、仮面高血圧と呼ばれます。
つまり、
病院で正常だから、普段の血圧も必ず正常とは限りません。
白衣高血圧もあれば、仮面高血圧もある。
だから、診察室の血圧と家庭血圧を組み合わせて考えます。
では、どちらを信じればいい?
「病院の血圧と家庭血圧が違ったら、先生はどちらを信じるんですか?」
という質問があります。
これは「どちらが正しいか」という問題ではありません。
両方が大切な情報です。
ただし現在の高血圧診療では、家庭血圧は非常に重要視されています。
普段の生活に近い状態で繰り返し測定でき、朝と夜の違いも見ることができるからです。
治療を始めた後も、
「薬を飲んで血圧がどう変化したか」
を家庭で確認することができます。
診察室血圧と家庭血圧。
この二つを組み合わせることで、その方の「いつもの血圧」が少しずつ見えてきます。
家庭血圧は、どう測ればいい?
せっかく家庭で測るのであれば、できるだけ同じ条件で測りましょう。
朝は、起床後1時間以内、排尿後、朝食前、降圧薬を飲む前。
夜は、就寝前。
椅子に座り、少し安静にしてから測定します。
血圧計は、基本的には上腕にカフを巻くタイプをおすすめします。

そして、
「今日は良い数字が出たから終わり」
ではなく、何日か続けて記録してみてください。
一回の数字ではなく、複数回の血圧から普段の状態を考えます。
ところで、血圧はいくつまで下げればいいのでしょう?
ここからが、少し新しい話です。
以前から高血圧の治療を受けている方の中には、
「高齢になったら140くらいでいいんでしょう?」
と思っている方もいらっしゃるかもしれません。
実際、以前の日本のガイドラインでは、75歳以上の高齢者について、若い方とは異なる降圧目標が設定されていました。
しかし、2025年に日本高血圧学会のガイドラインが改訂されました。
新しい「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)では、降圧目標について大きな変更があります。
年齢にかかわらず、
診察室血圧 130/80 mmHg未満
そして、
家庭血圧 125/75 mmHg未満
を目標とする考え方になりました。
これは、今回の改訂でぜひ知っておいていただきたいポイントです。
75歳を過ぎても「130/80未満」?
ここは少し驚かれるかもしれません。
原則として、そうです。
JSH2019では、75歳以上の高齢者の降圧目標は原則として診察室血圧140/90 mmHg未満でした。
JSH2025では、年齢だけを理由に目標を緩めるのではなく、年齢にかかわらず130/80 mmHg未満を目指すという方向に変わりました。
背景には、高齢者についても適切に血圧を下げることで心血管疾患を減らせるというエビデンスの蓄積があります。
例えば60~80歳の高血圧患者を対象としたSTEP試験では、収縮期血圧をより厳格に管理した群で、通常管理群より心血管イベントが少なかったことが報告されています。
日本高血圧学会も、この試験を高齢者を含む厳格な血圧管理を支持する重要なエビデンスとして紹介しています。
では、90歳でも必ず130未満にする?
ここは非常に大切です。
「目標130/80未満」と「何があっても130未満まで下げる」は同じではありません。
高齢になるほど、同じ80歳、90歳でも身体の状態には大きな個人差があります。
元気に歩いて生活している方。
複数の病気を抱えている方。
立ち上がると血圧が下がってしまう方。
ふらつきや転倒を繰り返している方。
フレイルのある方。
介護を必要としている方。
こうした方をすべて同じように考えることはできません。
血圧を下げることで脳卒中や心血管疾患を予防するメリットが期待できる一方で、過度な降圧によるふらつき、転倒などにも注意する必要があります。
ガイドラインの目標値は大切です。でも、治療するのは「数字」ではなく、その人です。
高齢者では特に、この視点が重要になります。
「上が130を超えたら高血圧」ではありません
もう一つ、混同しやすいところがあります。
今回お話ししている**130/80 mmHg未満は「治療中の方などにおける降圧目標」**の話です。
「130を超えた瞬間に高血圧と診断される」という意味ではありません。
高血圧の診断と、治療を始めた後に目指す血圧は、同じ話ではありません。
この違いは、健診結果を見るときにも重要です。
健診で高かったら、まず「いつもの血圧」を知る
健康診断で血圧が高かった。
そのとき、
「高血圧だからすぐ薬」
と考える必要も、
「家では大丈夫だから放っておこう」
と考える必要もありません。
まず、自分の普段の血圧を知る。
家庭に血圧計がある方は、朝と夜の血圧を何日か記録してみてください。
そして受診するときには、
健康診断の結果 + 家庭血圧の記録
を一緒にお持ちください。
この二つがあるだけでも、診察室で分かることはかなり増えます。
血圧の数字ではなく、その先を見る
高血圧の治療の目的は、
血圧計に130という数字を表示させることではありません。
その先にある脳卒中、心臓病、腎臓病などをできるだけ予防することです。
MediK 与野内科クリニックでは、健診で血圧異常を指摘された方についても、健診結果や家庭血圧、年齢、腎機能、糖尿病などを含めて確認し、その方に合った血圧管理を一緒に考えています。
健診では高かった。
でも家では正常。
あるいは、健診では正常だったのに家では高い。
そんなときこそ、一回の数字だけで結論を出さず、
「自分の血圧は、普段どのくらいなんだろう?」
というところから始めてみてください。
血圧は、一回の「点」ではなく、日々の生活の中にある「流れ」として見る。
それが、高血圧と上手につきあう第一歩です。
参考資料
・日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」
・日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025 発刊について」
・Zhang W, et al. Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension. N Engl J Med. 2021.
