2026年9月15日

― 血糖値との違いから、糖尿病の診断・寛解まで
健康診断の結果を見て、
空腹時血糖 98 mg/dL。
「正常だった」と安心したら、その横の
HbA1c 6.2%
には印がついている。
「血糖値は正常なのに、どうしてHbA1cは高いんですか?」
こんな疑問を持つ方もいると思います。
反対に、
「HbA1cが6.5%を超えたら、もう糖尿病なんですか?」
「一度糖尿病と診断されたら、一生糖尿病なんでしょうか?」
こうした質問もよく聞きます。
血糖値やHbA1cには数字がはっきり表示されるので、つい「ここから正常、ここから糖尿病」と一本の線で分けたくなります。
でも、実際の糖尿病診療はもう少し複雑です。
今回は、血糖値とHbA1cの違いから、糖尿病の診断、そして「一度糖尿病になったら一生なの?」という疑問まで順番に考えてみます。
血糖値は「その瞬間」、HbA1cは「最近の状態」
血糖値は、採血したその時点の血液中のブドウ糖濃度です。
食事の影響を受けますし、何時間前に食事をしたのか、運動をしたのか、その日の体調などによっても変化します。
一方、HbA1cは少し違います。
血液中のブドウ糖が赤血球のヘモグロビンと結合したものを測定しています。
そのため、一回の食事ではなく、過去1~2か月を中心とした最近の血糖状態を反映する指標として使われています。
たとえるなら、
血糖値は「今日の一枚の写真」。
HbA1cは「最近のアルバム」。
そんな違いがあります。

健診前だけ食事を控えたら、どうなる?
健康診断の前日になると、
「明日は採血だから、今日は少し食事を控えておこう」
と思う方もいるかもしれません。
翌朝、きちんと絶食して採血すれば、そのときの空腹時血糖には直近の食事条件などが反映されます。
一方、HbA1cはそれまでの血糖状態を反映しているため、前日だけ食事を変えたからといって大きく変わるものではありません。
そのため、
空腹時血糖は正常なのに、HbA1cは少し高い
ということは十分にあり得ます。
健康診断は試験ではありません。
前日だけ「良い数字」を目指すより、普段の自分の状態を知るために利用していただく方が大切です。
HbA1c 6.5%なら、糖尿病?
ここは誤解されやすいところです。
日本糖尿病学会では、
空腹時血糖 126 mg/dL以上
75gOGTT 2時間値 200 mg/dL以上
随時血糖 200 mg/dL以上
のいずれかを「糖尿病型」の血糖値としています。
また、
HbA1c 6.5%以上
も糖尿病型を判定する重要な基準です。
ただし、
「健診でHbA1cが6.5%だった=その一つの数字だけで糖尿病確定」
ではありません。
血糖値との組み合わせや、別の日の再検査などによって、慢性的な高血糖状態を確認して診断します。
一定の条件がそろえば一回の検査で糖尿病と診断できる場合もありますが、診断が確定しなければ時期をおいて再検査します。
ですから、
6.5%という数字は重要ですが、その数字だけを切り取って診断するわけではありません。
では、6.5%未満なら大丈夫?
こちらも、そう単純ではありません。
例えば、
空腹時血糖 108 mg/dL
HbA1c 6.0%
だったとします。
糖尿病型の基準には達していません。
でも、ここで見たいのは、
「6.5未満だから○」
ということだけではありません。
昨年のHbA1cはいくつだったのか。
数年前から同じくらいなのか。
体重は増えていないか。
ご家族に糖尿病の方はいないか。
血圧や脂質はどうか。
こうした情報を一緒に見ます。
「糖尿病か、糖尿病ではないか」という二択だけではなく、その途中の状態を見ることにも意味があります。
同じHbA1c 6.0%でも、同じとは限りません
例えば、
昨年5.5%だったHbA1cが、今年6.0%になった方。
3~4年前から毎年6.0%前後で推移している方。
数字だけを見れば、どちらも
HbA1c 6.0%
です。
でも、診察するときには同じようには見ません。
検査結果には、現在の値だけでなく「どちらに向かっているのか」という情報もあるからです。
これは血糖だけではありません。
健康診断の結果を毎年保管しておく意味は、ここにもあります。
空腹時血糖では「食後」が見えにくい
健康診断では朝食をとらずに採血することが多いため、測定されるのは空腹時血糖です。
ところが、私たちは一日中空腹で生活しているわけではありません。
食事をすると血糖は上昇し、インスリンなどの働きによって再び下がっていきます。
糖代謝に変化が出始めた段階では、空腹時血糖がそれほど高くなくても、糖を摂取した後の血糖処理に異常がみられることがあります。
必要な場合には、75gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)などで、糖を摂取した後の血糖の変化を詳しく調べる方法もあります。
ただし、健診でHbA1cが少し高かった方全員にこうした検査が必要ということではありません。
実際の診療では、これまでの経過やほかの健診結果なども見ながら、再検査するのか、生活習慣を見直して経過を見るのか、さらに詳しく調べるのかを考えます。
HbA1cにも「苦手なこと」があります
ここまで読むと、
「それなら血糖値よりHbA1cを信じればいいのでは?」
と思うかもしれません。
ところが、HbA1cも万能ではありません。
HbA1cは血糖だけではなく、赤血球の状態にも影響される検査だからです。
例えば、鉄欠乏状態ではHbA1cが実際の血糖状態より高めに出ることがあります。
反対に、出血や溶血など、赤血球の寿命が短くなる状態では低めに出ることがあります。
腎臓の状態や輸血などによっても、解釈に注意が必要な場合があります。
ですから、
「血糖は普通なのに、HbA1cだけ妙に高い」
というとき、
すぐに「糖尿病だ」と決めつけるのではなく、
なぜ二つの数字がずれているのか
を考えることがあります。
検査値には、それぞれ得意なことと苦手なことがあります。
「甘いものをやめればいい?」という話
血糖やHbA1cが高いと言われると、
「甘いものを控えます」
と言われる方は多いです。
もちろん、菓子類や砂糖を多く含む飲料などを多く摂取している場合には、見直す意味があります。
でも、糖代謝は「甘いもの」だけの問題ではありません。
食事全体の量や内容。
体重。
腹囲。
運動。
飲酒。
そして、血圧や脂質異常症なども含めて考えます。
だからこそ、健診で血糖異常を指摘されたときには、血糖とHbA1cの欄だけではなく、健診結果全体を見ることに意味があります。
「一度糖尿病と診断されたら、一生糖尿病ですか?」
これも、診察でよく聞かれる質問です。
以前、2型糖尿病と診断された。
食事や運動に気をつけた。
体重も減った。
今では薬を飲んでいないのに、HbA1cは5%台。
そんな方から、
「それでも私は糖尿病なんですか?」
と聞かれることがあります。
この質問に、
「一度糖尿病になったら、一生糖尿病です」
とだけ答えるのは、現在の考え方としては少し違います。
2型糖尿病では、生活習慣の改善や体重減少などによって血糖状態が大きく改善し、糖尿病の薬を使用しなくても糖尿病の診断域を下回る状態が続く方がいます。
現在、この状態について「寛解(remission)」という考え方があります。
国際的な専門家によるコンセンサスでは、
血糖降下薬を使用せず、HbA1c 6.5%未満が少なくとも3か月持続している状態
を、2型糖尿病の「寛解」とすることが提案されています。
では、糖尿病が「治った」ということ?
ここが大切です。
あえて「治癒」ではなく、「寛解」という言葉を使います。
血糖が正常に近い状態になっても、その状態がずっと続くとは限らないからです。
体重が再び増えたり、年齢とともに糖代謝が変化したりすることで、再び血糖が上昇することがあります。
また、以前に高血糖だった期間があれば、その影響についても引き続き注意が必要です。
ですから、
「一度糖尿病になったら、何をしても一生高血糖のまま」ではありません。
でも、
「HbA1cが正常になったから完全に治った。もう検査もしなくていい」でもありません。
この二つの間にあるのが、「寛解」という考え方です。
良くなったからこそ、その状態を見ていく
糖尿病が寛解した方でも、その後再び血糖が上昇する可能性があります。
そのため、血糖状態を定期的に確認していくことが大切です。
「以前は糖尿病だったけれど、今は薬なしでHbA1c 5%台」
というのは、
「もう関係ない病気になった」
というより、
「とても良い状態を維持できている」
と考える方が近いと思います。
これは患者さんにとっても、かなり前向きな話だと思います。
糖尿病と診断されたことは変えられなくても、その後の血糖状態は変えられる可能性があります。
二つの数字が違うことにも、意味があります
空腹時血糖は正常。
でもHbA1cは少し高かった。
反対に、血糖値が高いのにHbA1cはそれほど高くなかった。
そんな結果を見ると、
「結局、どちらを信じればいいの?」
と思うかもしれません。
でも、どちらか一方だけを選ぶ必要はありません。
二つの数字が一致していることも情報。
ずれていることも情報です。
そして、一回の数字だけではなく、去年、一昨年からどう変化しているかを見ることにも意味があります。
MediK 与野内科クリニックでは、血糖値やHbA1cだけではなく、以前の健診結果、体重、血圧、脂質、肝機能、腎機能、貧血の有無なども含めて確認し、その後の経過を考えています。
健康診断で血糖やHbA1cの異常を指摘されたら、今回の結果だけでなく、以前の健診結果があれば一緒にお持ちください。
一つの数字に○か×をつけるのではなく、数字同士の関係と、その変化を見る。
健康診断には、そんな使い方もあります。
参考資料
・日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
・日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド2024」
・Riddle MC, et al. Consensus Report: Definition and Interpretation of Remission in Type 2 Diabetes. Diabetes Care. 2021.
