2026年9月14日

― 健診の「基準値」と、あなたの「治療目標」は同じではありません
「LDLコレステロールが140を超えていますね」
健康診断でそう言われると、
「では、薬を飲んで140未満にすればいいの?」
と思われるかもしれません。
実は、脂質異常症はそれほど単純ではありません。
反対に、
「去年も150くらいだったけれど、特に何も言われなかったから大丈夫」
という方もいらっしゃいます。
これも、一概にはそうとは言えません。
なぜなら、脂質異常症では、
同じLDLコレステロール150mg/dLでも、その数字が持つ意味が人によって違うからです。
今回は、健康診断の「基準値」と実際の診療で考える「治療目標」の違いについてお話しします。
「140」という数字は何を意味しているのでしょうか
日本動脈硬化学会では、
LDLコレステロール140mg/dL以上
を高LDLコレステロール血症の診断基準としています。
では、141になったら治療が必要で、139なら大丈夫なのでしょうか。
そういう意味ではありません。
この数字は、脂質異常症を診断するための一つの基準です。
実際に治療が必要か、そしてどこまでLDLコレステロールを下げた方がよいのかは、別の視点から考えます。
ここは、健康診断の結果を見るうえで知っておいていただきたいポイントです。
「診断基準」と「治療目標」は同じものではありません。
同じ「LDL 150」の二人を考えてみます
例えば、どちらもLDLコレステロールが150mg/dLだったとします。
Aさん
45歳。
血圧は正常。
糖尿病なし。
非喫煙。
心臓や血管の病気を指摘されたこともない。
Bさん
65歳。
高血圧と糖尿病で治療中。
喫煙歴あり。
以前、心筋梗塞を起こしている。
二人の健康診断には、同じように
「LDL-C 150mg/dL」
と印刷されます。
でも、医学的にはこの二人を同じようには考えません。
Bさんでは、すでに動脈硬化性疾患を起こしており、再発を防ぐために、より厳格なLDLコレステロール管理が必要になります。
一方、Aさんでは、同じ150mg/dLでも、まず生活習慣を確認しながら経過をみるという選択肢も考えられます。
つまり私たちが診察室で見ているのは、
「LDLはいくつか」だけではなく、「その人がどのくらい動脈硬化を起こしやすい状態なのか」
ということです。
コレステロールは「単独犯」とは限りません
心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患は、LDLコレステロールだけで決まるものではありません。
高血圧。
糖尿病。
慢性腎臓病。
喫煙。
年齢。
そして、すでに冠動脈疾患などを起こしたことがあるか。
こうした条件が重なることで、その方のリスクは変わっていきます。
ですから、
「コレステロールが少し高いだけだから大丈夫」
とも、
「140を超えたからすぐ薬を飲まなければ」
とも、一つの数字だけからは決められません。
では、「LDL 120」なら安心でしょうか
ここが少し興味深いところです。
日本動脈硬化学会では、LDLコレステロール120~139mg/dLを「境界域高LDLコレステロール血症」としています。
140を下回っています。
それでも、その方がすでに冠動脈疾患を起こしていたり、動脈硬化のリスクが高い状態であったりすれば、「120だから問題ありません」とは限りません。
逆に、健康な方のLDLが140を少し超えたからといって、その数字だけで直ちに薬物治療が決まるわけでもありません。
健康診断の基準値は、すべての人に共通する「あなたの目標値」ではない。
ここが脂質異常症を理解するうえで、とても大切なところです。
「薬を飲み始めたら一生ですか?」
これも、診察でよく聞かれる質問です。
薬を始めるかどうかを考える前に、
そもそも、その方に薬物治療によるメリットがどの程度あるのか
を考える必要があります。
生活習慣の改善をまず行う方。
生活習慣を改善しながら数値の変化を見る方。
最初から薬物治療も組み合わせた方がよい方。
すでに心筋梗塞などを経験していて、再発予防のためにしっかりLDLを下げる必要がある方。
同じ「脂質異常症」でも治療は同じではありません。
薬を使うこと自体が目的なのではなく、将来の心筋梗塞や脳梗塞などを予防することが治療の目的です。
若いのにLDLがとても高い場合は?
もう一つ、少し違った見方が必要なのが、若い頃からLDLコレステロールが非常に高い方です。
「昔から高いので、体質だと思います」
と言われることがあります。
その「体質」の中に、家族性高コレステロール血症(FH)が含まれていることがあります。
成人では、未治療時LDLコレステロール180mg/dL以上は、FHを疑う一つの重要な所見です。
さらに、
アキレス腱などの腱黄色腫がないか。
ご両親や兄弟姉妹に高コレステロール血症の方がいないか。
若い年齢で心筋梗塞や狭心症になったご家族がいないか。
といったことも確認します。
「若いから大丈夫」とも、「昔からだから大丈夫」とも限らないところが、脂質異常症のもう一つの特徴です。
健診結果は「○か×か」をつけるものではありません
健康診断の結果には、基準値とともに「要注意」「要再検査」「要受診」といった判定が記載されています。
もちろん、それは受診を考える大切なきっかけになります。
でも、診療ではそこからもう一歩先を見ます。
この人にとって、この数字はどのくらい重要なのか。
そして、
将来の病気を予防するために、どこまで管理した方がよいのか。
それを考えるためには、LDLコレステロールだけを切り取るのではなく、血圧、血糖、腎機能、喫煙歴、これまでの病気なども含めて考える必要があります。
ですから、脂質異常を指摘されて受診される際には、コレステロールの結果だけではなく、健康診断の結果表を一式お持ちいただくことをおすすめしています。
MediK 与野内科クリニックでも、健診結果を一緒に見ながら、
「この数字は何を意味するのか」
「生活習慣の改善から始めてよいのか」
「薬を考えた方がよいのか」
を整理していきます。
健康診断の数字は、合格・不合格を決める点数ではありません。
その数字を、これからの健康管理にどう生かすか。
そこまで考えることが、健診を受ける本当の意味なのだと思います。
参考資料
・日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」
・日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版」
・日本動脈硬化学会「成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン フォーカスアップデート2025」
